記憶堂書店
日曜日。
良く晴れた日に、龍臣は修也の家を訪ねた。
実は事前に簡単に源助さんには事の詳細を電話で伝えていた。しかし、修也からも話を聞くからと言われていたようで、渋々と了承してくれたのだ。
龍臣が訪問すると、夏代が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、龍臣君」
そう言って覗かせた顔はどこか不安げだ。
きっと源助さんから話は聞いているのかもしれなかった。花代について、なにを話されるのだろうかという様子が見られる。
龍臣は安心させるように、笑顔で「おじゃまします」と答えた。
リビングへ通されると、そこには既に修也と源助さんが座って待っていた。
「よっ」と軽く手を上げて、「待っていたよ」とリラックスした様子でくつろいでいる。
それには少しだけ拍子抜けした。もっと緊張した顔をしているかと想像していたが、それは源助さんだけだったようだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
出されたお茶を一口飲んで、ホッと一息つく。
さて、と顔を上げると修也以外は眉間にシワを寄せて龍臣を凝視していた。思わず苦笑してしまう。
「あの、そんなに怖い顔して見られると話しにくいんですが」
「あぁ、すまん」
源助さんは焦ったように自分のお茶を飲む。
「あちっ」
「あらあら」
「祖父ちゃん、落ち着きなよ」
源助さんが溢したお茶を夏代が慌てて拭いている。
「新しいものを入れてくるから、先に話し始めていて」
夏代はそう言って席を立ち、台所へ行くが龍臣はその背中に声をかけた。
「いえいえ、待ちますよ。だって夏代さんに話をするって約束しましたからね」
そう言うと、夏代は「え?」と驚いた顔をして急いでお茶を入れ替えて持ってきた。
「そういえば、この前、記憶堂へ行ったとき。帰るときに約束がどうのって話したと思うんだけど、あれってなんのことだったのかしら。自分で言っててわけわからなくなっちゃって」
「僕が夏代さんと約束したんです。夏代さんが見た記憶の世界での花江さんの話をするって」
そう伝えるとキョトンとした顔をされた。
修也と源助さんは記憶堂の不思議な力について知っているが、夏代は知らないのだ。