記憶堂書店
龍臣は全てのことを話した。
記憶堂の不思議な力のこと、記憶の世界に夏代が行ったこと、そこで見た花江との選ばなかったもうひとつの世界での出来事。
ひとつひとつをゆっくりと、相手の反応を見ながら気遣いながら話した。
案の定、夏代は泣き出し、源助さんも目が赤い。
修也は泣きはしなかったものの、苦悶の表情を浮かべている。
龍臣は話し終わると、一口お茶を飲んだ。
「僕が知るのはここまでです。後はお二人がどこまで修也に話すか……です」
「あぁ、ありがとう。龍臣君、話してくれてありがとう」
わずかな沈黙の後、最初にそう口を開いたのは源助さんだった。
しゃくりあげて泣く夏代の背を優しく撫でながら、源助さんは自分を落ち着かせるように深くため息をついた。
「私に記憶の本が現れない理由がわかった気がしたよ。私は後悔ではなく、後悔すれば記憶の世界で花江と会えると思ってたんだ」
源助さんは自嘲気味に笑う。
「夏代は何一つ悪くない。誰も悪くはないんだ。ただ、不運だった」
源助さんはそう言って目頭を押さえた。
「祖父ちゃん、俺話聞けて良かった。いや、もう少し早く聞いていれば良かったのかもしれない」
ずっと黙っていた修也が落ち着いた声でそう話した。
「なんか聞けて凄く嬉しかった。もっと聞きたい」
祖父母の様子とは反対に、修也は嬉しそうだった。
祖父母が知る両親について、もっと教えてほしいとねだり、どんな内容でも受け入れる準備は出来ているのだそうだ。
修也の様子に源助さんは少し面食らったようだったが、すぐにホッとした顔になった。
やはり修也の反応が一番気になる所だったのだろう。
龍臣も安心した。
これなら大丈夫だろう。
やっと胸につっかえていたものがとれたきがした。