記憶堂書店
後は家族内の話だからと、龍臣は修也の家を出た。
来る前とは違って、どこか気分が落ち着いている。そのせいか、自然と足は記憶堂へと向かっていた。
記憶堂へ入ると、龍臣の気配を感じたのかあずみが二階から降りてきた。
「おはよう、あずみ」
龍臣の声かけに、あずみの顔がパッと輝く。
「話は上手く行ったようね」
嬉しそうに腕に飛び付き、満面の笑顔を見せる。
純粋に喜んでくれて、可愛らしかった。
「ありがとうな、あずみ。君がきっかけをくれたお陰かもしれない」
「ふふ、もっと誉めてよ」
くすぐったそうな顔で笑う。
そしてどこか色っぽく上目使いをして言った。
「お礼はないの?」
「お礼? ……欲しいのか」
龍臣は呆れた表情をしつつ、そう聞いた。
するとあずみは目を輝かせて大きく頷く。
お礼ねぇ……。
呟きながらソファーに座ると、あずみも隣にピッタリくっつくように寄り添って見つめてくる。
「ちなみに、どんなのがいいんだ?」
「そうねぇ……」
あずみは口許に人差し指を当てて一瞬考えると、そのまま龍臣を見上げて、その指をちょんと龍臣の唇に当てた。
「接吻……、キスって言うんだっけ」
そう言ってきた瞳はどこか挑戦的だ。
龍臣がしないとわかってて、からかっている時と同じ顔をしている。
それが妙に悔しい気分になった。
バカにされているわけではないだろうけど、侮られているような気分になる。
「ふぅ~ん……」
「なんちゃって……」
そう言って笑ったあずみの唇にそっとキスを落とした。
明確な感触などない。
何かに触れたような、そんな感じだ。
しかし、顔を離すとあずみは真っ赤になって唖然としていた。
その顔に、龍臣はやっと我に帰り、しまったと身体を後ろに引く。
「あ、ごめん。つい……」
「ううん、いいの! 大丈夫だから!」
あずみは赤い顔のまま、ソファーから立ち上がって頬を両手で押さえた。