記憶堂書店
「私が変な事を言ったからよね! 龍臣に無理させちゃった」
「いや……、悪かったよ」
龍臣も謝るしかなかった。
あずみに挑発された所はあるけれど、龍臣自信も気がついたら体が動いていたのだ。
どうしてこんなことをしたのかよくわからない。
しかしそれを説明する前に、あずみは大きく首を振った。
「ううん! あの、ありがとう、って言うのも変か。でもあの……、とりあえず、 私もう寝るね。おやすみ! また明日!」
あずみは早口でそう言うと、起きてきたばかりなのに二階へと戻って行ってしまった。
その背中を見送って、龍臣はやってしまったと天井を見上げた。
いくら相手は幽霊とはいえ、少なからず龍臣に好意的な相手にすることではなかった。
いくら感触がほとんどないからといって、キスするなんて。
あずみは幽霊なのに……。
龍臣は自分のしたことを後悔した。
あずみの様子を見に行った方が良いのかもしれないと立ち上がり、ピタっと動きを止めた。
視界の端にあるものを捕えたからだ。
まさか、と恐る恐る振り返る。
すると――――。
「あ~……、ごめん。見ちゃった」
店の入り口にはいつの間にか修也が立っていてのだ。
それには龍臣も声もない。
ただ目を見開いて修也を見返すしか出来なかった。
「あの……、龍臣君にちゃんとお礼を言おうと思って追いかけて来たんだけど、タイミングが悪かったね。あの……、また来ます」
そう言って踵を返す修也を「待て」とひき止めた。