記憶堂書店
そして、机に並べられている紅葉を「あら」と手に取って眺めた。
「綺麗な紅葉ね。彼女のものかしら?」
お婆さんはそう言って、龍臣の肩越しに視線を寄越した。
ギクッとして後ろを振り向くと、そこには硬い表情をしたあずみが立っている。
お婆さんの方は穏やかな表情だ。
見えているということなんだろうか。
龍臣は変な汗を感じながら、しらを切ることにした。
「えっと……? 彼女のものとは?」
「そこの彼女よ。袴姿の、髪の長い子」
明らかにあずみのことだ。お婆さんにはあずみが見えているということになる。
「私、昔から不思議な物が見える方でね。彼女、生きていないのでしょう? あぁ、怒らないでね。別にどうこうしようとかではないわ」
あずみからは怒りは感じられないが、良く思ってはいなさそうで龍臣はハラハラする。
「でも、あなた……、私と同じような経験があるのではなくて? 私の記憶に強く呼応されているようだわ」
「どういうことですか」
あずみではなく、龍臣が口を開いた。
今のお婆さんの記憶にあずみが反応しているというのか?
もう一度あずみを見るが、表情は硬いもののそれ以外の大きな変化は見られない。
いや、そう感じているのは龍臣だけなのだろうか。
「彼女にも似た経験があるのかもしれないわね」
そう悲し気に微笑みながらお婆さんは席を立った。
「ありがとう、店主さん」
外まで手を引いて送り出すと、お婆さんは丁寧に頭を下げた。
そして、龍臣にだけ聞こえる声で囁いた。
「あなた、彼女を大切に思っているのね。でもね、彼女は死んでいるわ。彼女の一方的な感情ならまだしも、あなたまでがそこに強く反応して共感するとあなたが彼女に引きずられてしまう」
「それは……」
「彼女は黒くなってきている。くれぐれも気を付けてね」
それだけ言うと、お婆さんは微笑んで帰って行った。
その背中を見送りながら、龍臣は唖然としていた。
どういう意味だろう。
あずみの思いに引きずられないようにという忠告はわかった。
そのあとの『黒くなってきている』というのは? 何を指しているのだろう。
あずみの最近の様子と関係あるのだろうか。
龍臣は店の中に視線を向ける。
あずみは先ほどから微動だにせず、同じ場所に突っ立ったままだった。