記憶堂書店


修也が記憶堂に入った時、臭いと感じた。
独特な鼻を突くような匂い。強烈というわけではないが、なんだか臭うと感じる位は臭みがあった。

「龍臣君、何この臭い?」
「臭い?」

龍臣は首を傾げている。龍臣には感じないのだろうか。何度も鼻をヒクヒクさせているが、わからないようで不思議そうにしていた。

「鼻がマヒしているんじゃないの?」

そう言いながら奥まで来ると、階段下でピタッと足を止めた。
そして、ソロッと二階を見あげる。

「ねぇ、龍臣君。今日、あずみさんは起きて来たの?」
「いや? まだ起きてきていないよ」

そう言われるが、修也は顔をしかめた。

「どうした?」
「この臭い、二階からしている。凄く臭い」
「え?」

龍臣は階段下で修也の隣に立つがやはり何も感じない。
しかし修也は臭そうにしている。

「あずみさんに何かあったんじゃ……?」

そう言われて二階を覗きに行くが、あずみの姿はどこにも見当たらない。まだ起きていないのだろう。起きていない時のあずみは記憶堂にいても姿も気配も感じられないのだ。
龍臣は修也に首を振るが、修也は険しい顔のままだ。

「やっぱりおかしい。最近のあずみさんの様子も変だし、この臭いといい、何かあったとしか思えないよ。龍臣君、心当たりない?」

そう言われて、龍臣は昨日のお婆さんの言葉を思い出した。

『黒くなってきている』

それはあずみの状態と関係があるのだろうか。

龍臣が最近のあずみの様子とお婆さんの話を修也にすると、修也も大きく頷いた。

「そうかもね。何かあるのかも……。あずみさんは今までとは何か違うもんな」
「……悪霊的なものになってきているってことなのか? あずみが?」
「可能性は否定できないよ。でもそれをどう本人に伝えるかだね」

龍臣はため息をついた。
自分で言っていて少なからずショックだった。





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