記憶堂書店


「そのお婆さんが言っていた、あずみさんが自分と同じような経験をしているって言葉も引っかかるね」
「あぁ。あずみが生きていた時に何かあったのかもな」

頷くと、二階からカタンと物音が聞こえた。
二人が振り返って階段の方を振り向くと、薄く透けている人影が見えた。あずみだ。
いや、一瞬あずみだとわかりにくいくらい、その姿はいつもと違った。
いつも一つにリボンで束ねている長い髪は下ろされていた。ボサボサの髪に、俯き加減でのっそりと降りてくる。

修也が息を飲んで龍臣の後ろに隠れた。
明らかにいつものあずみではない。

「あずみ……? どうした?」

龍臣は少しだけ後ずさりをしながら、階段を下りて俯いているあずみにそう声をかけた。
顔を上げてこちらを向いたあずみは、目を真っ赤にして泣きはらした顔をしている。しかしその表情からは感情が読み取れない。無表情でこちらを見ている。

「あずみさん……?」

修也の声かけにも無反応だ。
そしてしばらく龍臣を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。

「どうしてあの時、来てくれなかったの……?」
「え?」

あずみは一歩ずつ龍臣に向かって歩いて来る。

「私、ずっとあなたを待っていた。きっと迎えに来てくれるって、そう信じていた……。でも結局、あなたは来てくれなかったわ」
「あずみ、何の話をしているんだ?」

あずみにそう問いかけるが、その眼は龍臣を見ながらも『他の誰か』を見ているようだ。
また混同しているのだろうか。いつも、龍臣を通して見ている誰かと。

「あずみ、俺は龍臣だよ。僕には君の話がわからない」
「嘘を言わないで。言い訳なんて聞きたくないわ!」

龍臣の言葉を遮るようにあずみは声高く叫んだ。

「あんなに愛していたのに! どうして!」

あずみが大きな声で叫んだと同時に、あずみから大きな風が巻き起こった。

「うわっ」

修也がたまらず龍臣の服を掴む。
以前のように怒った時に巻き起こした風とはまた違う、もっとあずみの身体から発せられるような強い風だ。

「やめろ、あずみ!」

そう叫ぶが、あずみには届いていない。
店がガタガタと大きく揺れ、あらゆる本が巻き上げられている。あずみに近寄ろうにも、風で押されて側にいけない。



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