記憶堂書店
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龍臣が目を覚ました時、感じたのは床の冷たさだった。
顔を上げると、大きな窓から見えたのはしんしんと降り積もる雪だ。
「ここは……?」
倒れていた身体をゆっくりと起こし、辺りを見渡す。そこは記憶堂ではなかった。板張りの床にアンティークさを感じさせる、ソファーや机。どこか高級さも感じる。
どこか洋館風のお屋敷なのだろうか。
「龍臣君……」
呼ばれて振り向くと、少し離れた場所で修也が身体を起こしながら戸惑った表情を向けていた。
「どこなんだろう、ここ。俺たち、別の場所に飛ばされたってことなのかな?」
「あぁ、たぶん……。どこかはわからないが、あずみに触れた瞬間に光に包まれた。その時にここに飛ばされたんだと思う」
二人で周囲を見渡すが、部屋の中にヒントとなりそうな物は見当たらなかった。
すると、突然部屋の扉がガチャンと音を立てて開く。ハッと顔を向けると、部屋の中に女性が入ってきた。
着物姿に長い髪は後ろで一つにまとめてある。いつもと服は違うが、それはあずみだった。
「あずみさん!」
修也が声をかけるが、あずみはこちらに目を向けることなく机に向かっている。
「あずみ、いい加減になさい。相手の方にも失礼でしょう」
部屋の扉がノックされて、年配の女性が入ってくる。少しきつめの顔立ちだが、あずみによく似た綺麗な人だ。一目であずみの血縁者だとわかる。
「失礼? どちらが失礼なんでしょう。お母様、私はお見合いだとは聞いていませんでした」
憤慨したように母と呼んだその女性をキッと睨み付ける。
この年配の女性はあずみの母のようだ。そして、二人とも龍臣達のことが見えていないのか、全く目も向けず室内にいることに驚いた様子もない。
「事前に説明しなかったのは悪かったわ。でもね、お父様だってあなたを心配して……」
「心配? 心配しているのは自分の地位でしょう? お相手の方は財務省にお勤めだってお話ですもんね。銀行頭取のお父様からしたらこれ以上ないお相手でしょう。お父様があの方と結婚すればいいのよ」
あずみは一気に捲し立てると、憤慨した様子で肩で息をした。
「……とりあえず、今は落ち着きなさい。話はその後よ」
そう話して、あずみの母親は部屋を出て行った。