記憶堂書店


「え? 龍臣君?」

修也がその男性と隣で唖然としている龍臣を見比べている。
小屋から出て来た男性は龍臣に瓜二つだった。

「どういうことだ……?」

龍臣も驚きで目を見開いている。
あずみは小屋から出てきた男性に微笑みかけた。

「三彦さん、会いに来ました」
「あずみお嬢さん。何度も言いますが、こんなところに来てはいけません」

三彦と呼ばれた龍臣似の男性は困ったように眉を下げた。

「いいじゃない。今は休憩中でしょう?」
「そうだけど……。今日、お見合いだったんですよね?」

三彦は顔を曇らせながらそう尋ねた。あずみは大きく首を振った。

「そうね。でも私は誰ともお見合いなんてしないわ」

そう言って三彦を見つめる。三彦はますます困ったような顔になった。

「しかし……、そうはいかないでしょう。それにこんなこと、旦那様や奥様にもいつかばれてしまいます」
「ばれたら逃げればいいのよ」

あずみがそう言うと、三彦は悲し気に顔をゆがめた。

「なんて我が儘なお嬢様なんでしょう。下男を困らせないでください」
「仕方ないでしょう? そうでしか、私たちの道はないのよ……」

あずみは三彦の腕にしがみ付くそうに身を寄せた。三彦はその細い方をそっと掴む。

唖然と二人の様子を見ていた龍臣と修也は思わず顔を見合わせた。

「どういうことだ? あずみとあの三彦って人は恋人同士だったのか」
「きっとそうだね。でも、あずみさんと三彦さんは身分が違うんだ。あずみさんが産まれたのがいつかはわからないけど、推測からして大正末期から昭和初め。その頃なんて、身分違いなんてよくある話だし、ましてやお嬢様と下働きなんて許されるわけないよ」

修也は考えを早口で話した。それに龍臣も同意する。
つまり、あずみは身分違いの恋をしていたということか。

「でもなんで三彦さんは龍臣君にそっくりなんだろう?」
「さぁな。それはわからない」

龍臣は記憶を巡らせるが、身内に三彦なんて名前の人はいなかったと思う。

しばらくしてあずみは名残惜しそうに三彦の小屋から出て行った。






< 132 / 143 >

この作品をシェア

pagetop