記憶堂書店


その夜。
あずみが部屋で本を読んでいると、突然部屋の扉が開いた。
中に入ってきたのは年配の大柄な男性だ。

「お父様! 驚かさないでください、ノックをしてください」

あずみがそう言うと、年配男性――父親は顔をしかめてあずみの前に立った。

「お前、今日のお見合い相手の大沼様にお断りの電話を入れるよう秘書に伝えたそうだな」
「えぇ。だって結婚なんてする気ないもの」
「許さん! お前は大沼様と結婚するんだ。もうこれは決定事項だ」
「勝手に決めないでください!」

父親の言葉にあずみが怒鳴り返す。しかし父親も負けじと強く言い返した。

「お前の結婚はもう決まっているんだ! いつまでも我が儘を言うでない!」
「嫌です。結婚なんてしません!」

あずみが譲らずにいると、父親は怒りで顔を赤くしてあずみを睨んだ。

「じゃぁ、誰とならするんだ!? あ? 言っとくが、使用人の三彦は絶対だめだぞ!」

そう言われてあずみは言葉に詰まる。

「知っていたんですか?」
「当たり前だ! あいつとだけは認めん!」
「どうして!?」
「身分が違う。あいつはただの使用人だ。いくら跡取りではないとはいえ、お前と結婚させるわけにはいかない。諦めるんだ」

ハッキリと言われてあずみは涙目になる。

「嫌です。私は三彦さんが好きなんです。彼とでなきゃ結婚なんて出来ません」
「いいや、婚姻関係なんてただの紙切れだ。好きだのどうだのなんてことは後からでもどうとでもなる。お前は大沼様と結婚するんだ。お前の意思など関係ない。話は進める」
「お父様!!」

あずみの悲痛な声が響くが、父親は取り合おうとはしない。
父親は外から部屋の鍵をかけると、あずみを閉じ込めた。

「開けて! お父様!」

何度も扉を叩くが全くビクともしない。
あずみはその場に泣き崩れてしまった。

部屋の隅で一部始終をみていた龍臣は、思わず駆け寄ってその震える肩を抱きしめそうになった。
あんなに辛そうなあずみを見るのは初めてだ。

ひとしきり泣いたあずみは頬を拭って、窓を開けた。そして下を覗き込んでなにやら考え込んでいる。






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