記憶堂書店


男性が振り返った車はスモークが貼っており、中が見えない。
誰かいるのだろうか。
そう思っていると、車の後部座席が開いてひとりの女性が降りて店に入ってきた。
つばの広い白い帽子に、大きなサングラスをかけている。服は花柄の夏らしいワンピースを着ていた。
サラサラの長い黒髪を後ろに払い、女性は腕を組んで男性に冷たく言い放った。

「井原! いつまで待たせるのよ」
「あ、すみません。あの、本なんですけど……」

井原と呼ばれた男性はペコペコと頭を下げながら口ごもった。それだけで、女性は何かを察したようで今度は龍臣に顔を向けた。
そして、バッとサングラスを取って見せる。
小顔で色白、目がパッチリとした美人だ。

「こんにちは」
「こんにちは」

挨拶をされたので、普通に返すと女性は綺麗な形の眉を潜めて首を傾げた。


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