記憶堂書店
カーテンを閉めたところで、手を止める。
なんだかとても重たい過去を見てしまったせいで、気分も滅入ってしまった。
井原はすっきりとしたようだけれど、案内役の龍臣にとっては心に響く内容だったのだ。
「大丈夫?」
ため息をついている龍臣に、気遣わしげに後ろから声をかけられた。
「あずみ……。男と女はなんて難しい生き物なんたろうね」
龍臣の言葉に、あずみは首をかしげたように思えた。
西原は井原が嫌いではなかった。だから、本当は子供も産みたかったのだろう。しかし、それ以上に何よりも、今の人気女優という地位を捨てたくなかった。失いたくなかったのだ。
その思いが強すぎて、今のこの世界の井原には止めることが出来なかった。
龍臣は再び重いため息をつく。
命を扱う記憶は、現実に戻って来ても結構疲れるものだ。
産まれてくるはずだった命を諦めた西原を責めることは誰にもできない。
西原の人生であって、他人には口出しできないのだ。西原だって苦しんだはずだ。
もうひとつの過去の世界で、西原と井原と生まれてくる子供が幸せでありますようにと願わずにはいられなかった。