記憶堂書店

羨ましいね、と言いながら朝食を食べていると母が龍臣の隣に座ってニッコリ笑顔を向けてきた。

「今ね、修ちゃんと話していたのよ。良い歳した息子を実家から追い出す方法を」

龍臣はその視線から逃れるように目の前の朝食を黙々と平らげる。これは面倒くさい話になりそうだという予感がして、少しうんざりした。

「30歳、よくわからない古本屋勤務、休みの日は1日家にいるような実家暮らしの男なんて今どきモテるのかしら?」

母の言葉に若干傷つきながらも、相手にしたところで負けるとわかっている。ここはサラッとかわすのが一番だと龍臣は心得ていた。

「偏見だよ。そんな男は世の中にたくさんいる」
「もちろん、それが悪いわけではないわ。でもね、お母さんもお父さんももういい歳でしょう? 孫、いえ、せめて彼女くらいは……」
「ごちそうさま。出勤前にシャワー浴びてくる」

母の小言から逃げるように立ち上がった。修也はニヤニヤしており、それが腹が立つ。
つまりはさっさと結婚しろと言いたいらしい。
最近はそういった話が増えてきた。お見合い話が出るのも時間の問題かもしれない。そうなるとやっかいだ。
親の言い分も分かるが、しかし世の中そんなに上手くはいかないものなのだということはわかって欲しいところだが、それを言った所で負けるに決まっている。
しかも、よく分からない古本屋って……、継げと言って来た親の言うことではないだろうに。
朝から疲れた気分でシャワーを浴び、身支度を整えて玄関へ行くと修也が靴を履いて待っていた。

「何してるんだ」
「一緒に行こうかと思って」

笑顔を見せる修也にため息が出た。





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