記憶堂書店


「どうしたの、龍臣君?」
「あ、いや……」

不思議そうに振り返ってきた修也に笑ってごまかす。
しまった。つい反応して声を出してしまった。
しかし、龍臣にははっきりと聞こえたのだ。記憶堂で記憶の本が落ちる音が。
もちろん、その持ち主は龍臣でも修也でもない。
ということは、目の前にいる加賀先生の物なのだろう。
本が落ちて持ち主が近くにいるとその予測が付くこの感覚は、どこにいてもわかってしまう。それが記憶堂の血筋なのだろうということはわかっているが、龍臣としては「またか」という気でしかない。
本を渡して、受領書に印鑑を押してもらう。

「それにしても、修也君にこんな素敵な友達がいたとはね。担任の先生に聞いてびっくりしたよ」

加賀先生曰く、担任の先生から修也の友達が記憶堂の店主だから、修也に案内させると話していたらしい。

「友達っていうのかな? 近所の幼馴染ではあるけど」

確かに友達というにはやや歳が離れているし、友達らしく外で遊んだりはしない。
龍臣にとって、修也は弟みたいなものだ。
龍臣が学校保存用の受領証を書いていると、修也は貸し出し受付のカウンターに寄りかかりながら加賀先生と親し気に話していた。
それを見て、龍臣はピンッと来た。

「修也、ここで授業をさぼっているだろう」

突然の龍臣の発言に修也はビクッと身体を震わせた。加賀先生も目を丸くする。
正解か……。
龍臣は自分の予想が当たったことに少し肩を落とし、修也に呆れたような目線を送った。




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