記憶堂書店


加賀先生は苦笑して「いいのよ」と首を横に振る。

「むしろ、私は先生なのに……。ごめんね、修也君」

その笑みにホッとしたように修也も照れくさそうにつられて笑みを浮かべた。

「笑う所じゃないだろ、修也。祖父さんにチクられたくなかったらちゃんと授業には出なさい」
「はぁい」

龍臣に注意されて、肩をすくませて返事をする。本当に響いているのか疑わしい所ではあるが。そして、「これ本棚に仕舞ってくるよ」とカウンターに積み上げられた返却済みの図書を数冊持って逃げるように離れて行った。

「修也君、授業はきちんと出ているんですよ。本当にたまにこうしてここへ来て手伝ってくれるんです」

まるで怒らないで上げてという口ぶりだ。
龍臣ももちろんさぼりの常習ではないことくらいわかっているから、怒るつもりなど毛頭ない。時々のさぼりくらい龍臣にも身に覚えはある。

「でも、修也君には甘くなっちゃうな」
「どうしてですか?」

ふふっと笑う加賀先生に顔を向けて首を傾げる。
修也にだけ甘くなるのはひいきと言われてしまうのではないか。さすがにそれはまずいだろう。
すると、加賀先生は声を潜めて言った。

「私、修也君の母親の花江と同級生なんですよ」
「え……」

まさかの名前に龍臣は目を丸くする。

「修也の母親ですか?」
「そう。でも今は行方が分からないそうですね。蒸発したって」

それに対して龍臣は黙って返答はしなかったが、加賀先生は事情を把握しているようだった。

「私が最後に花江に会ったのは、修也君を妊娠している時かな。街中で偶然再会して……。あの時は元気そうだったけど」
「それから連絡は取っていないんですか?」
「ええ。花江、連絡先変えてしまったようで電話もメールもつながらないの」
「そのこと、修也には?」
「言ってあります」

そうだったのか、と龍臣は一瞬天井を見上げた。




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