記憶堂書店


「やっぱりバレた? 聞いたんだね。 実は加賀先生、お母さんと同級生だっていうから何か知ってるかなって思ってさ」

そう話す声は明るい。

「で、何か聞けたのか?」

そう聞くが、修也は首を横に振った。

「大人になってからは会ってなかったらしいから……。でも、学生時代の話は聞けたよ。お母さん、美人でモテたって」

ヘヘッと笑う修也に、静かに「そうか」と返事をした。
自分を置いて行方のわからない母親の事でも、何か知ることが出来るのは嬉しいのだろう。
修也はあまり自分の両親について、話したりしない。
付き合いの長い龍臣でも、修也が心でどう思っていたのかなんてわからないのだ。

記憶堂に着いて、開店準備を始めると二階からカタンと音がした。

「あれ? あずみさん。もう起きたの? 早いね」

修也が二階へ繋がる階段を見上げた。
どうやらあずみが起きて来たらしい。しかしまだ時間は午前中である。

「あずみ、どうした。まだ早いぞ?」

あずみはいつも夕方になると現れる。
しかし、最近たまにこうして昼間に出てくることがあるのだ。
いや、正確には昼間に出てくることが増えたと言える。その理由はわからないが。

「目が……覚めたのよ」

あずみがポツリと呟くと、龍臣の胴体が暖かくなった。あずみが抱きついているのだ。

「あずみ」

龍臣があずみが居るであろう場所を見下ろして諭すが離れる気配はない。





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