記憶堂書店
「さっき、本が落ちたわ。記憶の本が……。誰のかしら」
あずみの言う記憶の本は、きっとさっきの加賀先生の物だろう。
本の音で目が覚めたのか? 今まではそんなことで起きなかったのに。
「あぁ、きっともう少ししたら来ると思うよ」
「女……?」
あずみは呟いて、しがみつくようにさらにきつく抱き着いてきた。
思いがけず強い力で顔をしかめる。
「あずみ、ちょっと痛いから」
「あずみさん! 龍臣君が苦しそうだよ」
二人に同時に言われ、あずみはハッとしたように龍臣から離れた。
「あ、ごめんなさい。何してるのかしら、私……」
「寝ぼけてるの?」
修也はしかたないなぁと言うように苦笑する。
「そうかも」とあずみも微笑むが、龍臣は無言であずみがいるであろう場所を眺めていた。
寝ぼけていた? それにしては寝ぼけて抱きつく力とは思えないくらいに、力は強かった。男である自分が苦しく痛いと感じるほどに。
「修ちゃん、学校は?」
「夏休みだよ」
また聞かれた、と呆れる修也を横目に龍臣はあずみにどこか違和感を感じずにはいられなかった。