記憶堂書店
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加賀先生が目を開けると、見覚えのある商店街が並んでいた。
勤務する高校に行く途中にある場所だ。魚屋や肉屋本屋、八百屋……。いつもよく見る風景。その中で違うのは、店先に立つ店主の顔が今よりも若かったり、先代たちであるということだった。
「ここは昔……?」
加賀先生は不安げに周りをキョロキョロと見渡した。
どこか今の町並みとは少し違う。古さを感じる。まさか本当に、と加賀先生は口元を押さえた。
「ここは、先生が後悔してやり直したいと思う過去です」
突然聞こえた声にハッと振り返ると、そこには記憶堂の店主が立っていた。
「記憶堂さん?」
「あなたがやり直したいと強く思い、後悔している過去は、記憶の本としてあの本屋に現れます。ここは、あなたが願う場所です」
「じゃぁ、やり直せるの?」
加賀先生は戸惑いの表情にうっすらと希望の笑みを浮かべたが、龍臣は静かに首を振った。
「いいえ。過去は変えることは出来ません。今のあなたの人生はやり直すことは出来ないのです」
「そんな……」
「しかし、選ばなかったもうひとつの過去を見ることはできます」
龍臣の言葉に加賀先生は訝しげに眉を潜めた。
「どういうこと?」
「あなたが選択に迷い、選ばなかったもうひとつの過去を見れるのです。しかし、できるのは見ることだけですが」
「本当に? 本当にそんなことが出来るの!?」
加賀先生は目の前の龍臣の腕を掴んだ。