記憶堂書店
その背中を見送り、龍臣は今の加賀先生に尋ねた。
「あれが、加賀先生のやり直したい過去ですか?」
龍臣は静かに聞くと、加賀先生は黙って頷いた。切なげに眉を寄せている。
「彼女は……、花江は修也君の母親です」
「はい」
龍臣もすぐにあれが修也の母親であることはわかった。ということは、抱いていた赤ん坊は産まれたばかりの修也だろう。
龍臣は修也が祖父母に預けられてから交流があった。祖父母に連れられてよく記憶堂に来ていたのだ。しかし、当時もう大きくなってきていた龍臣は、修也の両親とは面識がこそないが、母親は失踪する前、何度かこの商店街で見かけたことがあったのだ。
当時はその女性が修也の母親だとは思いもしなかった。
今こうして人の記憶を通して、見覚えのある人だということくらいでしか思い出せなかったのだから。