記憶堂書店

「失踪を止められたのかもなんて思ってしまうんです。何か力になれたら……。だから私はもしあの時、話を聞いてあげられたらとずっと思っていたんです」

そう言って龍臣を見あげる。そして龍臣はひとつ頷いて言った。

「過去は変えられません。しかし、選ばなかったもうひとつの未来を見ることは出来ます」
「つまり、私が話を聞いていた未来ですよね?」
「はい。見るだけです。現実はなにも変わらない」

それでも見ますか? 龍臣の無言の問いに加賀先生は頷く。

「それでもいいです。見させてください」
「……現実に戻って、ここで見たこと聞いたこと全てをを覚えていないとしても?」

現実に戻ってから記憶の出来事を覚えている人なんて、まれだ。

「はい。それでも」
「わかりました。……実は僕も見たいです」

龍臣の正直な呟きに、ここに来て初めて加賀先生が笑った。

「では」

龍臣は指をパチンと鳴らした。


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