記憶堂書店
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「あのさ、綾子。この後時間ある? 少しお茶しない?」
龍臣の合図に目を開けると、目の前では先ほどの二人の会話が繰り返されていた。
花江がどこかすがるような瞳で綾子を見つめている。
さっきはここで急いでいるからと断ってしまった。
しかし、綾子は時計を確認して迷うような表情を見せ、フッと微笑み「少しならいいよ」と答えた。
それに誘った本人である花江が少し驚く。
「本当に大丈夫? 予定があったんじゃないの?」
「実はこの後、職場の飲み会なんだけど正直あまり気乗りはしていなかったの。だからバスが渋滞していたとか言い訳するわ」
綾子はいたずらっ子のようにフフッと笑った。
花江は申し訳なさそうな表情をしつつも、安堵したように頷く。花江もダメもとで聞いてみたのだろう。
「近くのカフェでいいかな?」
「うん。ありがとう」
そう言って二人は連れ立って歩いて行った。