記憶堂書店
源助
もう九月に入ったというのに、最近は昔に比べると夏の日差しが強くなったな、と龍臣は店先で水を撒きながら思った。
アスファルトに撒かれた水はあっという間に渇いてしまう。それでも、少しでも涼になればと汗を脱ぐって水を撒いていた。
昼は久しぶりに商店街にある中華屋でさっぱりと冷やし中華でも食べそうかな。
そう思っていると、穏やかな声が龍臣を呼び止めた。
「今日も暑いなぁ、龍臣くん」
低いしゃがれた声に振り替えると、にこやかに麦わら帽子を被ったポロシャツ姿のおじいさんがこちらに歩いてきた。
その顔を見て龍臣も自然と笑みが浮かぶ。
「源助さん」
源助さんは修也の祖父だ。
現在70歳。少し白髪が混じっているが、背筋も伸びており実年齢より若く見える。
龍臣の祖父の代から時々この記憶堂に足を運んでは雑談をして帰って行った。そのうち、修也を抱っこして連れてくることが多くなった。ふたりがお茶を飲みながら話をしている間はよく龍臣が修也の面倒を見ていたのだ。
最近は修也のほうが記憶堂に入り浸るようになり、源助さんが来るのは久しぶりだった。
「どうだい、繁盛しているかい?」
「その言葉はこの店には無縁の言葉ですね」
そう笑いあいながら源助さんを「どうぞ」と涼しい店内へ案内する。
麦わら帽子をとって汗を拭う源助さんは、店の中を見回した。
「相変わらずだね、記憶堂は」
龍臣は冷蔵庫から奥のソファーに腰掛ける源助さんに冷たい麦茶を出す。