記憶堂書店
「それにしても珍しいですね。源助さんが来るなんて」
こうして店に訪れてくるのは一年ぶりくらいになるだろうか。
「最近は修也が常連だもんな。流石にちょっと遠慮はしていたよ」
麦茶をグビッと飲みながらそう話す。なるほど、源助さんなりに気を遣っていたのか。
しかし、そうなると今日は何しに来たのだろうか。龍臣の疑問が顔に出ていたのだろう。源助さんは軽く咳払いをして、どこか言いにくそうに口を開いた。
「なぁ、龍臣くん。修也は最近どうだい?」
源助さんは少し口ごもりながらそう聞いてきた。
なるほど、ここに来たのは修也についてなにか聞きたいのだろう。龍臣になら何か話しているかもしれないと思って、ここに来たのだとわかった。
「どうって何がです?」
龍臣はあえてとぼけてみる。すると益々源助さんは困った表情をした。
「何がって、その……最近の様子というか……」
「そんなの源助さんの方が毎日一緒なんだからよく分かっているでしょう?」
苦笑しながらそう答えると源助さんはぐっと言葉に詰まって、気まずそうに頭をかいた。
「わからねぇから聞いてんだ。最近、修也は思春期ってやつなのか昔より可愛げがなくてな」
「思春期ねぇ……」
龍臣は腕組みをしながら最近の修也を思い浮かべる。確かに思春期を感じさせるところはあるが、龍臣に対してはあまり変わりはなかった。
一つだけ思い浮かぶとしたら。
「まだ進路についてもめているんですか?」
「もめてはいないけどね」
とっさに否定するが、龍臣がじっと見つめると源助さんはため息をついた。
「……あいつが大学に行きたくない理由はなんなんだ? 学力的には何とかなるだろう?」
やっぱり、と龍臣は思った。
進路について、源助さんは大学へ行かせたくて、修也はそれを迷っている、という状態がまだ続いていたのか。
源助さんはそれについて龍臣が何か知っているのではないかと思い、来たのだろう。