記憶堂書店


これには苦笑するしかない。
源助さんが期待するほど、龍臣が知っていることは何もないのだ。
それに、そこは家族でよく話し合いをしてもらわないと、と思うがそれもお互い気を遣って出来ていないのだろうと推測できる。

「理由は源助さんも感じているんじゃないですか?」
「……金の心配か?」
「まぁ、そればかりでもないようですけどね。修也自身がやりたいものが見つからなくて、進路に悩んでいるんですよ」

修也はやりたいことがないのに、大金を使わせてまで大学に行く意味があるのかと悩んでいた。

「やりたいものがなくても、今の時代、とりあえず大学に行ったりするものだろう。就職にも有利になるし、みんなそのために行くようなもんだ」

確かにそこは大きい。
なんだかんだ言って、学歴を問われることは少なくない。将来の就職のためとりあえず大学へ行くという若者のほうが今は多いのではないだろうか。実際に進んだ学部と就職先が違うなんてこともよくあることだ。
だからこそ、源助さんのとりあえず大学へ行けという気持ちはわかるが、経済的に豊かではないとわかっているから尚更、修也は渋るのだろう。
修也は慎重で真面目な性格だ。だからこそ、迷っているのだろう。
修也自身、大学へ行く意味や意義を持ちたいのだと思う。

「まだ二年生ですから、もう少し待ちませんか。きっと答えを見つけますよ」
「そうか……」

源助さんは少しシュンとしながら頷いた。
親がいないからといって不自由させたくない源助さんと、経済的に負担を掛けさせたくない修也。お互いが思いやっているからこそ、すれ違うのだろう。
しかし、お互いが遠慮しあって本音を言えないのではどうしようもない。




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