記憶堂書店
源助さんは自分を納得させるように数回頷くと顔を上げた。
「ありがとう、龍臣くん。これからも修也をよろしく頼むよ」
源助さんがそう言って立ち上がろうとしたのを、龍臣は咄嗟に「待ってください」と声をかけた。
「あの、源助さんにお聞きしたいことがあって」
「なんだい?」
座りなおした源助さんは小首を傾げた。
一瞬、龍臣は言葉に詰まる。つい声をかけたは良いものの、なんと言って切り出そうか何も考えていなかった。
先日見た修也の母親の記憶についてどう話そうか、話しても良いものだろうかと迷う。そもそも、龍臣がそのことを知っていること自体が不審だろう。
さてどうしたものかと迷う。
「どうした?」
「あ、いや……。その……」
源助さんは未だに修也の母親と連絡を取っていたりするのだろうか。父親はどうなったのだろう。修也に言えないだけで、本当は何か知っているのではないだろうか。
疑問は多い。しかし聞きたい気持ちと他人が口出すことではないという気持ちとで口ごもる。
すると、龍臣の様子を見て源助は苦笑した。
「龍臣くん。もしかして何かを見たのかい?」
「えっ……」
穏やかな、しかしどこか確信めいた口調でそう聞かれ、龍臣は戸惑った。
見たとはどういう意味なのだろう。
どういった意味合いで見たのかと聞いたのだろうか。
源助さんの見たというのは、修也の両親の過去のことなのだろうか。龍臣がそれを記憶の本で見て知ったと気が付いたのだろうか。
だとしたら、源助さんは記憶堂が持つ力のことを知っているのか?
記憶の本について祖父からでも話を聞いていたのだろうか。龍臣は修也以外に記憶の本について話したことがない。
しかし、祖父と親交があった源助さんなら何か聞いていたのかもしれなかった。
けれどその確証もない。
龍臣は混乱した。記憶堂の力についてあまり人に言ってはいけないものだとわかっているからこそ、確信をついて切り出しにくかった。
ここは相手が言うのを待つしかないか。
「その……見た、とは?」
しかし、源助は微笑みながら軽く首を振る。
「……いや、何でもないよ。また話そう。君と話をするのは好きなんだ」
「ありがとうございます」
そんなことを言われるとは思わず、少し驚く。
龍臣の反応に源助はふっと笑うと店を出ていった。