記憶堂書店
その姿を見送りながら、やはり源助さんは記憶堂の力について知っているのかもしれないと思った。
そして、龍臣が修也についてなにか見たのだと思ったからああ言ったのではないだろうか。
しかし、確証がないのに龍臣から切り出しにくい。
そもそも、身内でもない龍臣が修也の問題について首を突っ込んだとして、源助が話してくれるとは限らないのだ。
「単に僕がモヤモヤするだけなのか……」
軽いため息とともに扉を閉める。
この前の加賀先生の記憶の世界で見聞きしたことは、忘れるべきなのだろうか。
そんなことを考えていると、店の扉がガラッと開いた。
お客さんだろうかと龍臣は「いらっしゃいませ」と声をかける。すると、そこには汗を拭う修也が立っていた。
新学期が始まったのだろう。久しぶりに制服姿だった。
「涼しー」
店の中でかけているクーラーの風に当たりながら、修也はペットボトルの飲み物を口にする。
「龍臣君、さっき祖父ちゃん来た?」
外ですれ違ったのだろうか、「あぁ、来たよ」と伝えると困ったような顔をした。
「何か言ってた?」
それを聞いて龍臣は呆れたようにため息をつく。
「同じようなことを聞いて来るなよ」
「え?」
「心配してたぞ。僕にお互いのことを聞こうとしないで、ちゃんと話し合えよ」
挟まれる方はいい迷惑だ。
二人がきちんと話し合えば済む話なのに、それが出来ないでいるからすれ違いが生じているのだ。
「そうは言ってもさ、なんかね」
修也はさっきまで源助が座っていた位置に座る。
「育ててくれて感謝しているからこそ、無理はさせたくないっていうかさ」
他人の家の経済状況について、龍臣は口出せる立場にいない。しかし、双方の気持ちはよくわかる。
「堂々巡りだな。さっきも源助さんに言ったが、お前はまだ二年生だ。詳しい進路何て来年でも十分だろう」
「そうなんだけど、周りが受験勉強やら進路について話すことが増えたからなんとなく気持ちが急ぐんだよね」
と、修也は困ったように笑った。
まぁ、もう二年生も後半に差し掛かるとさすがに進路の話は頻繁に出るし授業もその対策に向けて進むのだろう。
「祖父ちゃんや祖母ちゃんが悪いわけでもないんだけど、親がいたらもっと話しやすかったのかなとか思ったりしてさ」
珍しく修也から親というワードが出た。