記憶堂書店
龍臣はついまじまじと修也をしてしまう。
「え、なに?」
「……お前さ、両親についてなんて聞いているんだ?」
龍臣は言葉にやや慎重になりながらそう尋ねた。
龍臣と修也が、修也の両親について話すことは初めてだった。
だからこそ、修也が両親についてどう思っているのか、どこまで知っているのかがわからなかったからさっきまで悩んでいたのだ。
修也は特に顔色や様子を変えることなく、「んーと」と思い出すように首をひねった。
「父親は産まれてすぐくらいに死んで、母親は行方不明ってことくらい」
「死んだ?」
それには龍臣も驚いた。ということは、父親はあの後すぐに亡くなったということなのだろう。
「それ以外は? 母親が今どうしているかとか、連絡はないのかとか」
「何も。もしかしたら祖父ちゃんの所に連絡はあったのかもしれないけど、俺は何も聞いていないよ」
あっさりとした口調で話す修也に龍臣の方が狼狽えた。
「お前、知りたいとか会いたいとか思ったりしないわけ?」
一度くらいはあるだろう。そうでなければ、母親と友人だった加賀先生の所へ行って話をしたりなんてしないはずだ。
「まぁ、昔は思ってたけど。だから加賀先生にも母親について話を聞いたりしたけどさ、聞けば聞くほど遠いというか」
「遠い?」
「なんか身近に感じられないっていうか。話を聞いても、その人が自分の母親っていう感覚がないんだよね」
修也は赤ん坊の時に預けられたせいか、母親の記憶はない。だから尚更、母親について想像できないのかもしれなかった。
「なるほどな……」
「でも、どうして預けられたかとか、失踪した理由は何かとかは一度は聞いてみたい気がするけど……、よくわかんないや」
「……そうか」
会いたいとかそう言うのではなく、どうしてかという理由を知りたいというのが一番だろう。
修也は見た目以上に、実は両親について考えているのではないだろうか。