記憶堂書店
「ねぇ? 龍臣」
あずみはそう言って龍臣に話を振った。
「龍臣君、どういうこと?」
不思議そうに首を傾げる修也は、説明してと言うように龍臣をじっと見つめてくる。あんな話の振り方なんて、明らかに龍臣が何か知っていますとでも言うようなものだ。
龍臣は思わず額を抑えてしまう。
こんなタイミングで言うつもりはなかった。
龍臣が知った修也の母親の話は気軽に出来るものではない。一度、源助さんに話してからでも良いのかとも考えていたのだ。
「龍臣君、何か知っているの?」
修也は不安げにこちらを見てくる。
龍臣は心の中であずみに余計なことを、と恨めしく思いながら修也が座るソファーの前に座った。
「……ある人の記憶の本にお前の母親が出て来たんだ」
「え……」
修也は驚いたように目を丸くした。
「お前の母親は、事情があってお前を祖父母に預けたそうだ。その事情って言うのは僕もわからない」
「事情……。まぁ、そうだろうね」
どこか自虐的に笑う。
事情がなければ子供を置いていくようなことは普通はしない。修也なりに何か事情があったのだろうと考えていたのだろう。
「でもお前のことは大切に思っていたぞ」
龍臣は修也の様子を見ながら簡潔に話した。
見たままを細かく話そうかとも思ったが、修也がどこまで受け止められるか図れなかったからだ。
しかもきっと龍臣より修也の祖父母の方が詳しく母親の様子や状況を知っているはずだ。その祖父母が話していないというならば、龍臣があれこれと出しゃばっていいことではないような気がした。
「龍臣君は誰の記憶の本で見たの?」
「それは言えない」
加賀先生の記憶の本を開いたとき、修也はいなかった。だとしたらいくら修也とはいえ、案内人として客のプライバシーを配慮しなければならない。
「ふぅん。まぁ、予測はつくけどね」
修也は両手を頭の後ろで組んで、天井を見あげた。
「大切にねぇ……。本当に大切なら、普通は手放さないもんだけどな。やっぱり親の考えていたことがさっぱりわからないや」
「見たこと全てを細かく話した方がいいか?」
どこか呆れたように鼻で笑う修也にそう聞くが、やや食い気味に「今はいい」と断られてしまった。