記憶堂書店
「龍臣君、話そうか迷ってたんでしょ。ごめんね、俺なんかで困らせて」
「そんなことは別に大丈夫だ」
高校生に気遣われ、龍臣はバツが悪そうに顔をしかめる。
しかし、修也はどこかイライラとしているように見えた。やはり両親の話は、良いものも悪いものも修也にとっては複雑であまり気分のいいものではないのだろう。
しかし、少なからず知りたいという気持ちは残っている。
龍臣は修也の立場ではないし、両親に愛情を持って育てられたので修也の気持ちはわからない。だからこそ、安易に口出しは出来ないと思っている。
修也を傷つけることだけはしたくなかった。
「とりあえず今日は帰るよ」
修也はそう言って「またね」と店を出て行った。去っていく背中がどこか哀愁が漂っているように見えるのは気のせいなのだろうか。
余計なことを言ってしまったなと後悔する。その姿を見送ってから深くため息をついた。
そして店に入ると、「あずみ」とあずみの名前を静かに呼んだ。
「なぁに?」
「余計なことを言うな」
龍臣が珍しく厳しい口調であずみにそう言った。
「どうして? 龍臣が悩むくらいなら話せばいいことでしょう? 修ちゃんだって知る権利はあるわ」
「知る権利はあっても、修也がそれを望まなければそれは余計なことだ」
「知りたいって言っていたじゃない」
「知りたいけど知りたくない、複雑な気持ちなんだよ。そこは外野が慎重に気持ちを察して伝えなきゃならない」
そう言うとあずみは不満そうに鼻を鳴らした。
「私は修ちゃんの気持ちじゃなくて、龍臣の気持ちが優先よ」
「優先しなくていいから。空気や相手の気持ちを察してくれ。幽霊だってそれくらいは出来るだろう、人間だったんだから」
龍臣にしては珍しくはっきりとあずみに物を言うと、あずみが怒った雰囲気を感じた。
「そうよ! 幽霊よ! 死んだ人間は黙っていろってことね!?」
「そう言う意味じゃない」
すると近くにあった本が浮いて、龍臣に向かって飛んできた。
一瞬、あずみが投げつけて来たのかと思ったが高い位置の本や遠くの本棚の本も龍臣に向かって飛んできており、ポルターガイストのような現象をあずみが引き起こしているのだとわかった。
「痛い、やめろ! あずみ」