記憶堂書店
龍臣は俯きながら呟いた。
「全く……。顔を見たら忘れられなくなってしまうだろう」
声や存在以外に、顔を見てしまったら龍臣はあずみという幽霊を形ある者としてより強く認識するようになる。
幽霊とわかっていても、そこにあずみという女性が存在しているのだと感じるようになるからだ。
それは龍臣にとって、あまり歓迎出来ることではなかった。
龍臣はこれ以上、あずみという幽霊を、存在を認めたくはなかった。
あずみからの好意を感じれば感じるほど、それは意識的に思ってきたことだ。
だからこそ、ある程度の一定の距離を保ってきたつもりだった。
「それなのに……」
あずみは幽霊だ。
それは変えられない事実。
そして、あずみにとっても、龍臣にとっても残酷な事実であることには変わりないのだ。
龍臣が必死に守ってきたこの距離感は永遠に保たなければならないと思っていた。
「だからこそ顔なんて見たくなかったのに」
龍臣は悔しげに唇を噛んだ。