記憶堂書店


翌日から、毎日のように来ていた修也は記憶堂に顔を見せなくなった。
あずみもあれから姿を見せなくなった。
当たり前のように常に記憶堂にいた二人が現れないことは、龍臣にとって驚きでありどうしたものかと頭を悩ませていた。

さすがに一週間たって、何となくこれはまずいだろうと思い、まずは修也のフォローが先だろうかと考えていると、源助さんが記憶堂にやってきたのだ。

「どうだい、繁盛しているかい」

帽子を脱いで、ソファーに座った源助さんは笑顔でそう聞いてきた。
麦茶を出しながら龍臣は苦笑する。

「この店で繁盛は合わない言葉ですよ」

そう答えて向かいの椅子に座る。

「そうかい。さてな、龍臣君。修也の事なんだが……」

龍臣はやはり、と思った。
修也の様子がおかしいのだろう。だから源助さんは自分の所に来たのだろうと察することが出来た。

「修也の様子はどうですか?」

先にそう聞くと、源助さんは器用に片眉を上げた。

「やはり何かあったんだね」

確信めいた言い方に、龍臣は少し迷いつつも頷いた。

「先週から新学期で学校が始まったというのに、あいつはすぐに家に帰ってきて部屋に閉じ籠るんだ。今まではテスト期間ですら記憶堂に寄っていたというのに、だよ」

源助さんは困ったように苦笑しながら言った。
確かに修也はテスト期間だろうが何だろうが、二日に一回は顔を出していた。それが記憶堂に寄りもしないで部屋に閉じこもっているなんて、相当ダメージを受けたのだろうと思う。
龍臣は深いため息をついた。

「何があったんだい? 喧嘩でもしたか?」

源助さんは優しく聞いてきた。
いや。口調は優しいが、どこか「ちゃんと話せ」という迫力がにじみ出ている気がする。
龍臣は誤魔化しきれないと感じて、素直に話すことにした。







< 92 / 143 >

この作品をシェア

pagetop