記憶堂書店
「すみません。僕も修也にどう伝えるべきか迷ったんですけど」
「迷ったから大切に思っていた、とだけ伝えてくれたんだね」
源助さんはありがとうと言ってくれた。
その言葉に後押しされるように、龍臣は記憶の本で見たことについて話をした。
「見たのは、修也を源助さんに預ける少し前位の頃だと思います。花江さんの話だと父親は入院中で、花江さん自身もどこかへ行かなくてはいけないと話していました」
「そうか……」
「修也は大切だけど、でも行かなくてはいけないと……。決心を固めていた様子でした」
そう話すと、源助さんはため息をついた。
「なぁ、龍臣君。どうして私には記憶の本が現れないんだろうね」
「え?」
「私は花江のことをとても後悔しているよ。あの日、花江が修也を預けに来た時にもっと引き止めて、なんとかあの子の状態を助けてあげられていたら……、修也にこんな寂しい思いをさせることはなかったのではないかって。もし家に閉じ込めるくらいに強く引き止めていたらどうなっていただろう。記憶の本が現れて見せてはくれないだろうかって……。ずっと思っていたよ。ねぇ、どうして私には現れないんだろうね」
「それは……、僕には何とも……」
記憶の本は龍臣がコントロールできるものではない。
いくら源助さんが後悔していることがあったとしても、龍臣にはどうすることも出来ないのだ。
「そうだね、すまない。君を責めているわけではないんだよ。……私が最後に花江に会ったのは、修也を預けに来た日だった。いくら説得しても、引き止めても怒っても……。何をしても無駄だった」
「どこへ行くとかは?」
そう尋ねると、源助は小さく首を振った。
花江は詳しい理由を言わずに行方不明になったのだと言う。
「……修也の父親は優しくていいやつだった。自分の両親を亡くしていてね、その分、家族に憧れを持っていた。だから花江をそれは大切にしてくれていたんだ。でも、仕事への才能はなくてね。自分の親が残してくれた工場を潰してしまったんだ」
そう言うと、喉を潤すように麦茶を一口飲んだ。
「莫大な借金をして、昼も夜も問わずに働いて結局は身体を壊してしまった。入院することになったんだ」
「その、失礼ですけど、源助さん達からの援助とかは?」
「したよ。でもそれでもこちらも限界はあった。娘のためにギリギリまで手助けしたが、借金も入院費や治療費ももどうにも賄えなくなってきたんだ」
源助さんはハァとため息をついて、困ったように苦笑した。
「それでも娘は修也を身ごもったこともあって、絶対に別れないと言っていた。でも、とうとう彼の状態も悪くなりだしてね。もう、ほとんど手遅れになっていた。そんな時……」
源助さんは眉間にしわを寄せ、苦しそうな顔をした。話すのが辛いと言った様子だ。