記憶堂書店
「どうして、修也にはその事を教えないんですか?」
「自分の両親が借金をして、挙句父親は身体を壊して死んだ。母親はお金のために自分を置いてヤクザの後妻になった、なんて知りたいと思うか?」
源助さんはこの時、初めて龍臣にやや強めの口調で聞いた。
「あの子だって、今まで両親について細かく聞いてこようとはしなかった。あの子だって真実は知りたくないんじゃないのか?」
源助さんの言いたいことは龍臣もよくわかっていた。むやみに修也を傷つけたくはない。その気持ちは理解できる。
しかし、本当にそれでいいのだろうか。
「そうでしょうか?」
龍臣は疑問を呈した。
少し前まで龍臣も源助さんと同じようなことを思っていた。だから修也に両親の話を聞いたりすることはなかった。
しかし、本来なら自分の親について、少しでも知りたいと思うことは自然なことだ。現に修也だって加賀先生に母親の昔話を聞いてたくらいだ。
感心なようなそぶりを見せてはいたが、本当にそれが修也の本心なのだろうか。
「修也の学校に花江さんの友人が先生でいます。修也は時々その先生に母親の昔話を聞いていたそうですよ。今回だって、僕が伝えたことが修也を動揺させたのかもしれませんが、本当は修也は心のどこかで両親のことを知りたいと思っているのではないでしょうか?」
龍臣には珍しく、相手を説得させるような口調で力説した。
源助さんもそんな龍臣に驚いたのか、一瞬目を丸くさせたがすぐに頬を緩ませた。
「そうか……、修也がそんなことを……」
「修也ももう高校生です。時間はかかるかもしれませんが、理解できない年頃でもないでしょう? まずは修也が両親についてどう思っているか聞くことから始めませんか?」
そこまで言って龍臣はハッとした。
何を出過ぎたことを言っているのだろう。これは修也と源助夫妻が決めることだ。簡単に他人が口出ししていいことではない。だからこそ、自分だって悩んでいたのに一度堰が切れたら思っていたことが全て口から出てきてしまった。
「すみません。出過ぎたことを言いました。僕には関係ないことなのに……」
そう言うと、源助さんはゆっくりと首を横に振った。
「いいや。君は修也にとって兄のような身近な存在だ。もしかしたら私達より懐いているんではないかと思うくらいにね。だから、君が修也について色々と考えていてくれていることが嬉しいよ」
フフッと源助さんは笑うと、大きくため息をついた。
「全てを知って、あの子は幸せだろうか。ちゃんと幸せになっていってくれるだろうか?」
「なれますよ。あいつはそこまで馬鹿じゃないです」
龍臣が断言すると、源助さんはやっと嬉しそうに「そうだな」と笑った。