記憶堂書店
夏代
翌日。
昨日の源助さんの様子から、修也と話をしたのかと思って待っていたが、やはり修也は記憶堂には来なかった。
まだ話せてはいないのだろうなと想像する。
まぁ、昨日の今日だし、そんなに簡単に切り出して話せる内容でもない。
時間がかかるのだろう、と龍臣は思った。
いや、そもそも修也が来ないのはこちらが余計なことを言ってしまったということもあるのだから、一度、こちらから様子を見に行くのも良いかもしれない。
会ってくれるといいけれど……。
そう思っていると、二階からカタンと物音がした。
ここ一週間感じなかった、あずみの気配が微かにする。
龍臣は階段下から上を覗き込んでそっと声をかけた。
「あずみ……?」
呼び掛けに反応するように、空気が揺れる。
ゆっくりと階段をのぼって二階へ行くが、気配は消えることはなかった。
二階は10畳程の広さで、段ボールや書籍が山積みになっている。
小窓からの光はうっすらと入るが、どこか薄暗い。
「あずみ、居るのか?」
龍臣が二階の部屋を見渡しながら静かに声をかけると、端の方からすすり泣く声が聞こえた。
声の方に顔を向けると、うっすらと人の姿が見えた。
龍臣は驚いて少しだけ目を見開く。
先日見た、あずみの姿だ。
あずみが膝を抱えて悲しげに泣いている。
しかし、この前と違うのは、あずみの姿は透けていて後の壁の模様までよく見えるということだ。透明に近いくらいに。それくらい透けていた。
でも龍臣にも姿が見えている。
どうしてだろう。
この前はあずみの怒りが凄く、その反動なのかエネルギーなのかはわからないが、姿が見えたのはよくわかる。
しかし、今回はなぜだろう。
泣いているから?
でもこれまでも、あずみは感情豊かだったからある程度の喜怒哀楽はあった。
今回も我を忘れているようには見えない。
あの一件以来、自分にも見えるようになったと言うのだろうか。
龍臣は泣いているあずみをじっと見つめていた
。
いくら透けているとはいえ、龍臣にとってはそこにいるあずみは普通の女性のように見えた。
「泣くな、あずみ」
気がつけば龍臣はあずみの目の前まで近寄っていた。