記憶堂書店
あずみが龍臣の声に反応して、ゆっくり顔を上げる。
先日見たまま、小顔で色の白い、目鼻立ちが整った綺麗な顔立ちをしていた。
しかしその瞳は涙に濡れている。
龍臣はその頬に手のひらを寄せた。
もちろん、感触なんてなく手は通り抜けてしまう。
「龍臣……。私が見えるの?」
「うん、何故だかね」
苦笑すると、あずみの顔がクシャッと歪んで再び大粒の涙が溢れた。
「ごめんなさい、龍臣。私、あんなことをするつもりはなかったの」
「うん、わかっているよ」
「あの時は怒りでコントロール出来なくて……。龍臣も本も傷つけてしまったわ……」
あずみはシュンと項垂れる。
「あんな力があるなんて……、私はやっぱりもう人ではないから……。幽霊で化け物なんだって……」
「化け物ではないだろ?」
「化け物よ! あんなことするなんて、悪霊みたいだったわ」
あずみは泣きながら龍臣の腕の中に突っ伏した。
そしてシクシクとまた泣き出してしまう。
小柄で小さな背中だ。人のような温もりは感じないけれど、龍臣が戸惑うには十分だった。
離れないあずみに、仕方なく背中に腕を回し、ゆっくりと撫でた。
「ごめんなさい、龍臣。私最近なんだか変なの。今まではこんなことなかったのに、自分を上手くコントロール出来ない時があって……、どうしたらいいかわからないの……」
やはり龍臣の気のせいではなかったようだ。あずみ自身も自分に起きている変化を感じ取っていた。
そして、どうしたらいいのかわからずまた泣き出している。
「もういいって」
龍臣はあずみの頭をそっと撫でる。龍臣にだってどうしたらいいのかわからない。
あずみの変化がどういう理由で起こっているのか見当もつかないのだから。ただ、慰めるしかできない。
龍臣にはあずみの感触はないが、あずみは龍臣の温もりを感じるのか、顔をあげて龍臣を見つめた。
「不思議ね。ちゃんと、触れてくれている感じがするの……」
「そうか?」
「今までは、私から抱き付いたり触れたりしても、龍臣から触れられている感じはなかったのに」
あずみは嬉しそうにフフッと笑った。
あずみの年齢がどれ程かはわからないが、笑うと少しだけ幼さが出る。
とても可愛らしかった。
あずみはここにいる。
いくら幽霊とはいえ、ここに存在しているのだ。
そう思うとどうにも堪らない気持ちになり、気がつけば龍臣は無言でそっと胸にあずみを抱き寄せていた。