俺の言い訳×アイツの言い分〜あの海で君と〜
…あの日のことは忘れられない。

あの時、琴乃が流した涙の訳には、
ふたつの意味があった。


ひとつは、
今までピンと張っていた、
緊張の糸が解れたような感覚。

もう一つは、

“駿祐に、なんてことを言わせてしまったんだ”といったところだろう。


こんな凄い人から、気持ちをぶつけられ、
もちろん、嬉しい気持ちと、その反面、

不安の方が、
それよりも大きく割合を占めていた。


自分など、駿祐に相応しくないと思っていた琴乃には、
どう対応していけば良いのかわからなかったのだ。


駿祐の周りは、
琴乃には知らない世界がある訳で、
思いを寄せている人も、確実に居るはず…


そこへ、
“私が彼女です!”とは、
琴乃の性格的に、まず、言えない台詞だった。


影ながら応援できて、
どこかでバッタリ会ったとしても、
何も、気まずいコトもなく、
世間話でもできたなら…

ただ、そんなコトを夢にみていた琴乃にすれば、

自分の口から発するには、恐れ多い言葉。


それでも、駿祐の口から、
「俺の彼女…」

なんて言われたならば、

それはそれは、
言葉には表せない程、
嬉しいコトではあった。


何があったかは知らないが、
コソコソ、駅構内へと、電話で誘導されたことは、
そんな琴乃に、不安をつのらせた。
< 72 / 238 >

この作品をシェア

pagetop