俺の言い訳×アイツの言い分〜あの海で君と〜
琴乃に関して言えば、
ただ、自分が会いたいだけのために、
毎日、1時間かけて、見舞いに通っているなんて、そんなワケがない。

それなりに、支えになっていると思っていたに違いなかったはずだ。


「そーゆーとこ、気がつかなくて…あたし、やっぱり天然なのかな?」

「ふふっ。」



その日から、
琴乃は病院へは行かなかった。

それどころか、
メールさえ、自分からするのは控えていた。

病院だということもあったが、

どんな言葉も、励ましも
今の駿祐の気持ちを、逆撫でするであろうと、
琴乃なりに考えてのことだ。


でも、駿祐からのメールには、熱心に応えたつもりだ…言葉を選びながら。



偶然、街で出くわした慶太から、

駿祐が、杖で歩く練習に入ったが、
これが思うようにいかず、“少し苛つき気味らしい”と聞いた。


そんなこと、一言も言わない駿祐の
“琴乃の前では、弱音をはけない”的なところが、

自分達の関係が、まだまだなんだと、感じさせられる琴乃だった。



いつしか駿祐は退院し、
まずは実家へと戻ってきた。


松葉杖をつきながら、琴乃の前に姿を現した駿祐は、
久しぶりの、外での再会に、少し照れくさそうに見えた。


そして、ゆっくりと街を歩きながら、
二人の会話は、実は、あまり弾んではいなかった。

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