全てを混ぜた色
鉛筆
カチャ、パチリ、とキーボードの音が部屋に響く。

僕は本を読みながらパソコンの前で眉を寄せている彼女を横目で伺った。

カチャカチャカチャ、

デリートキーを連打したのか嫌な音が聞こえる。

僕は軽く嘆息すると彼女の名前が書かれた本を閉じる。

そして彼女の前に真っ白な紙と鉛筆を置いた。

彼女は餌を目の前にした犬のように鉛筆を掴むとガリガリと白い紙を埋めはじめた。

彼女は作家だ。しかも、売れっ子の。

だが、彼女はタイピングが苦手で、焦ってしまう締切前は酷くミスタッチをする。

さらに、彼女は短気で。

苛立ちのまま叩かれるキーボードはボロボロだった。

僕と付き合う前に彼女は言っていた。

「私、機械に嫌われてるのかな」

執筆中に不機嫌になった彼女には鉛筆と紙を与えると良い。

機械に嫌われる彼女は、紙を物語で真っ黒に染めると彼女は上機嫌になるのだから。
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