彼女と彼の最後の夏
私と明里の実家は隣り同士で並んでいて、
明里のことは幼稚園の頃から知っている。
私の両親と明里の両親がとても仲が良かったので、
お互いの家に遊びに行ったりもしていて、そのたびに明里と2人で色々なことをして
遊んでいたのだが、いつも必ずどこかで喧嘩になる。
その原因は間違いなく、明里のワガママで自分勝手な性格からくるものだった。
私は彼女と、何度喧嘩しただろうか。
そのたびに、私は何度もそんな彼女を許してきた。
小学生になると明里とは別のクラスになり、遊ぶことはほとんどなくなったのだが、
中学1年の入学式の時に、私の前の席に明里が座っていたので驚いたのをよく覚えている。
「驚いた。明里じゃない!私と同じクラスなんだね」
私は明里にそういうと、明里は私の顔をジロジロと眺めたあとに
「あんた、誰?」
という一言が返ってきたので、私はその場で固まってしまった。
小学生になって明里と遊ばなくなったとはいえ、家の前や学校ですれ違ったりしているのに
忘れてしまうことがあるのだろうか?と私は考えた。
それに、幼稚園の頃はあんなに喧嘩をしてきたし、忘れたくても忘れられない出来事が多かった。
「なーんてな」
明里はそう言ってニヤリと笑って私を見た。
「冗談!冗談!なつきぃ~久しぶりだな!」
明里はそう言うと私の肩をポンポンと叩く。
「あんた、全然変わってないわね。その性格」
幼稚園の頃の明里と今の明里を重ね合わせ、少しだけ笑った。
「そうかな~?自分ではよく分かんないや。夏希は変わったな」
明里がそう言うので驚いた。
「んー、何が変わったかって聞かれると困るんだけどさ」
明里は困ったように笑いながら髪をいじる。
私と明里の会話をチャイムの音が引き裂いた。
それから明里は、クラスの中でも特に目立つ派手な女子達のグループに入り
楽しそうにしていた。明里の周りにいる女子達はスカートを短くしたり、
化粧をしていたりするのだが、明里だけは普通だった。
化粧をしなくても肌が白くて綺麗な明里は、それだけでも充分目立っていた。
そんな私はというと、派手でも地味でもない普通のグループの中にいた。
授業中、何度も先生に「静かにしろ!」と注意されている明里達を見ていると、
やっぱり私と明里は正反対の人間だと実感した。
こうして静かに授業に参加している自分の姿と、目の前にいる明里の姿を比べると
あまりにも違い過ぎて不思議な感覚に襲われた。