ハルノウタ
幕開け
ガタンゴトンと列車が木々の間を駆け抜けながら黒い煙をもくもくと吐き出していく。
雛鳥たちが飛行訓練を受けながら列車の窓にぴよぴよと朝の挨拶にやってくる。
そんな雛鳥たちに優しく微笑み返しながら、コゼット・オーリック・オリヴィエはため息を漏らした。
夏の太陽の下で生い茂る緑を眺めながら想いを馳せているのかその表情は浮かない。
それもそのはず、この旅は楽しい慰安旅行でも鉄道旅行でもない。
これは旅行とは少し違うのだ。
定まった地を離れて、ひととき他の土地へゆくのではない。
この旅は“ひととき”他の土地に行くのではなく、“ずっと”他の土地に行くのだ。
移住といったほうが正しい。
そう、コゼットは馴れ親しんだ故郷を離れ隣国のプランタン王国へお嫁に行くのだ。
コゼットはオリヴィエ王国の第一王女。
プランタン王国第二王子の元へ嫁ぐ事になっている。
その為にコゼットは長い汽車の旅を強いられていた。
だがそれが、コゼットの浮かない顔の直接的な原因ではない。
コゼットにとってはそんなことは何の苦でもなかった。
むしろ、自分の世界が広がると少し胸を躍らせている節がある程だ。
それよりも深刻な問題があった。
自国のオリヴィエ王国を出たことがなかったコゼットは最初こそこの汽車の旅を楽しんでいた。
窓の外にはまだ見ぬ様々な光景が広がっており、コゼットの好奇心を誘った。
侍女にあれは何かと訪ねたりとそこそこ楽しい日々を送れたのも2日がいいところだ。
流石に3日目からはただ車窓を眺めているだけでは飽きてしまった。
手持ちの本も全て読み終えた。
それから、汽車では自由に動き回ることも容易ではない。
危ないからと侍女のソフィーが制止に入ってくるし、この狭い空間だ。
動き回るスペースがない。
コゼットは退屈より何よりも耐えられなかった。
生まれて16年。末っ子と言うこともあり父も母もコゼットの事をのびのびと育てた。
その為か、2人の兄に囲まれてのびのびと育ちすぎてしまったのだ。
決して、落ち着きがないわけではない。
じっとしていることが苦手なのだ。
「一体いつになれば私はこの汽車から降りて外の空気が吸えるのだろうな。」
ぽつりとコゼットは空を見上げながら呟いた。
「もうすぐ、着きますよ。」
すると、いつの間に来たのか侍女のソフィーがティーセットを持ちながら答えた。
「お前は昨日同じことを言っていた。」
「今度は本当ですよ。先ほど車掌殿が今日の夕刻には着くだろうとおっしゃっておりました。」
「そうか、ならよかった。」
ソフィーはアフターヌーン・ティーをカップへと注いだ。
「さあ、これでも飲んで退屈を凌いでいて下さい。スコーンも用意致しました。」
「ああ、ありがとう。」
ようやく、長かった汽車の旅も終わりを迎えようとしている。
コゼットは数週間ぶりの安堵の顔を見せた。
美味しそうにソフィーの作ったスコーンを頬張るコゼットを見てソフィーも何週間ぶりに微笑んだ。
雛鳥たちが飛行訓練を受けながら列車の窓にぴよぴよと朝の挨拶にやってくる。
そんな雛鳥たちに優しく微笑み返しながら、コゼット・オーリック・オリヴィエはため息を漏らした。
夏の太陽の下で生い茂る緑を眺めながら想いを馳せているのかその表情は浮かない。
それもそのはず、この旅は楽しい慰安旅行でも鉄道旅行でもない。
これは旅行とは少し違うのだ。
定まった地を離れて、ひととき他の土地へゆくのではない。
この旅は“ひととき”他の土地に行くのではなく、“ずっと”他の土地に行くのだ。
移住といったほうが正しい。
そう、コゼットは馴れ親しんだ故郷を離れ隣国のプランタン王国へお嫁に行くのだ。
コゼットはオリヴィエ王国の第一王女。
プランタン王国第二王子の元へ嫁ぐ事になっている。
その為にコゼットは長い汽車の旅を強いられていた。
だがそれが、コゼットの浮かない顔の直接的な原因ではない。
コゼットにとってはそんなことは何の苦でもなかった。
むしろ、自分の世界が広がると少し胸を躍らせている節がある程だ。
それよりも深刻な問題があった。
自国のオリヴィエ王国を出たことがなかったコゼットは最初こそこの汽車の旅を楽しんでいた。
窓の外にはまだ見ぬ様々な光景が広がっており、コゼットの好奇心を誘った。
侍女にあれは何かと訪ねたりとそこそこ楽しい日々を送れたのも2日がいいところだ。
流石に3日目からはただ車窓を眺めているだけでは飽きてしまった。
手持ちの本も全て読み終えた。
それから、汽車では自由に動き回ることも容易ではない。
危ないからと侍女のソフィーが制止に入ってくるし、この狭い空間だ。
動き回るスペースがない。
コゼットは退屈より何よりも耐えられなかった。
生まれて16年。末っ子と言うこともあり父も母もコゼットの事をのびのびと育てた。
その為か、2人の兄に囲まれてのびのびと育ちすぎてしまったのだ。
決して、落ち着きがないわけではない。
じっとしていることが苦手なのだ。
「一体いつになれば私はこの汽車から降りて外の空気が吸えるのだろうな。」
ぽつりとコゼットは空を見上げながら呟いた。
「もうすぐ、着きますよ。」
すると、いつの間に来たのか侍女のソフィーがティーセットを持ちながら答えた。
「お前は昨日同じことを言っていた。」
「今度は本当ですよ。先ほど車掌殿が今日の夕刻には着くだろうとおっしゃっておりました。」
「そうか、ならよかった。」
ソフィーはアフターヌーン・ティーをカップへと注いだ。
「さあ、これでも飲んで退屈を凌いでいて下さい。スコーンも用意致しました。」
「ああ、ありがとう。」
ようやく、長かった汽車の旅も終わりを迎えようとしている。
コゼットは数週間ぶりの安堵の顔を見せた。
美味しそうにソフィーの作ったスコーンを頬張るコゼットを見てソフィーも何週間ぶりに微笑んだ。