ハルノウタ
そう言い終えるとパチンと手を叩き席を立った。
「どうしたんだ?もう食事はおわりか?」
「あぁ。そろそろ王女様が到着する時間だからね。」
「出迎えるのか?」
「あぁ。そのつもりだよ。一様隣国の王女様なんだ。失礼のないようにしなくてはね。」
「お前はそういう所真面目だよな。だからあんなあだ名がつくんだろうがな…。」
「なんか、言ったかい?」
「いや、何でもねぇ。じゃあ俺はもう少しここの料理を食べてから退散するよ。じゃあな。」
「あぁ。」
そう言って、フィビアンは独身最後となる昼食とも晩餐とも言えぬ食事を終えて、その場を後にした。
執事の話だとこっちへ着くのは夕方くらいになるだろうと言っていた。
あと、30分もすれば着くだろう。
正面玄関の大階段に座りながら王女の到着を待つことにした。
されど、50分待とうとも、一時間待とうとも2時間待とうとも王女は現れない。
もう、とっくに着いてもいい時間だと思う。
何か、事故にでも巻き込まれてしまったのだろうか?
「フィビアン、まだ待っていたのか?」
その時、ちょうど昼食を食べ終わったフレデリックがやって来た。
「フレデリックこそ、まだ食べ終わってなかったのか。」
「ここの料理が美味しすぎてな。残すのは勿体無いなと思って全部食べてきたんだ。」
「あれを全部食べてきたのか?」
「ああ、そうだ。」
こいつの腹のなかはなにかブラックホールでもあるんじゃないか?
フィビアンは少し引き気味にフレデリックを見た。
「フィビアンが食べなさすぎるんだ。それよりまだ、王女様は来ないのか?もう、とっくに夜が更けちまってるぞ?こんなとこにいるとお前が風邪を引いてしまうぞ。」
フレデリックは心配そうにフィビアンを見下ろした。
「でも、長旅でやっと着いた所に誰も迎えがいないんじゃ可哀想だろ?でも何かあったんじゃないかってね、少し心配になってきた。」
「何かあったらすぐに憲兵どもが連絡してくるだろうし、それは大丈夫だろうよ。」
「だといいけどね。」
依然大階段に腰を下ろしたまま、まだ誰もやってこない扉をじっとフィビアンは見つめていた。
大きな窓からは満月が顔を覗かせて、玄関を明るく照らしていた。
「あんまり、長居しすぎるなよ。直ぐに来るとは思うが、もし王子様が風邪を引いたなんて言ったら笑えないからな。」
「気遣いありがとう。もう少しだけ待ってみることにするよ。」
それを聞くとフレデリックは苦笑いを浮かべながら右手を振りその場を後にした。
また、誰もいなくなった玄関に一人。
辺りはより一層寒さを増して、外からは鳥の鳴き声と犬の遠吠えが聞こえてくる。
こんなにも、待たされていたフィビアンだが自然と怒りは湧いてこなかった。
むしろ、興味が湧いた。
こんなに大遅刻をして一体どんな王女なのか。
フィビアンは、ふっと笑みを浮かべると顔を気持ち悪くニヤつかせた。
まだ見ぬプリンセスに会うまであと3分。
夜空には星が宝石のように輝いて外を明る照らし始めていた。
その中に城に近づいてくる馬車が一両。
風を切り軽快に足音をならせ、一人の少女を乗せた馬車はようやく城の門をくぐった。