食人姫
二人を待たせるわけにはいかないと、素早く服を着替えて家を出る。


「遅い!いつまで待たせるのよ……って、あれ?」


外に出た俺を見るなり、由奈が不思議そうに俺を見た。


なんだよ……いきなり文句かと思ったら、変なものでも見るみたいに。


「制服だったから良く分からなかったけど……へえ、たくましくなったじゃない。これなら麻里絵を……」


「ちょ、ちょっと由奈!何言ってるのよ、もう!」


麻里絵を何なんだよ。


まさか「これなら麻里絵を任せられるわ」とか言おうとしていたんじゃないだろうな?


心配されなくたって、その時が来たらどうにかなるだろ。


まだ高校生の俺には、付き合う以上の事は考えられないけどな。


「じゃあ行こうか。哲也には行くって言ってないけど、大丈夫かな?」


「大丈夫に決まってるでしょ。この谷のどこに行く場所があるわけ?」


そう言われれば……改めて辺りを見回すと、田んぼと畑、そして民家がちらほらとあり、小さな学校が丘の上に見えるだけで、昔から変わらない景色が広がっているだけ。


街に出た俺の感覚が狂ってしまったのか、この谷だけ時間が流れていないかのような錯覚に陥るほどだった。
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