食人姫
月明かりに照らされた谷、点在する外灯が頼りの暗い道を、慎重に歩く。


麻里絵の家までは300メートルくらい。


俺の家とも、神社とも別方向にある。


民家は多めの道だから、隠れるのには都合が良いけど、道の片側は田んぼが広がっている。


見通しが良い道でもあるのだ。


家を出て、集会所を通り過ぎて生け垣に身を隠す。


「どうだ?いるか?」


哲也の問いに、俺はそっと顔を出し、暗い道を凝視する。


こんな夜中に俺達以外の人影はないはずだから、何かがいればすぐに分かる。


道路……空……田んぼ。


どこを見ても化け物らしき姿はない。


最初に出会った時みたいに、黒い塊にも気を付けて見たけど……それもない。


「大丈夫みたいだ、行こう」


そう呟いて、道路に飛び出した俺達。


この調子で麻里絵の家まで行ければ良いんだけど……と、思った時だった。
















突然、少し先の道路の真ん中に、ふわりと黒い影が舞い降りたのだ。


まずい!


と、俺が思ったと同時に、グイッと左側に引っ張られる身体。


民家と民家の間の草むらに倒れ込んだ。


俺より早く、それに気付いた哲也が……素早く対処してくれたのだ。
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