食人姫
他人の家の庭を、道路から見えないようにして進む。


この家の爺ちゃんは、谷の人達の中でも特に恐い。


小さい頃はよく怒鳴られたもんだと、少しだけ感傷に浸りながら、俺達が侵入した場所の反対側の塀に辿り着いた。


「哲也、この向こう側は……田んぼだろ?どうするつもりだよ」


まさか、それでも乗り越えるなんて言わないよな?


今、俺達が立っている位置から、さらに1メートルは低くなっていて、塀の高さを足せば、2.5メートルにはなる。


「化け物が動いてねぇなら、乗り越えるしかないだろうが。門から出てみろ、真正面に化け物がいるんだぜ?」


確かにそうだけどさ。


化け物に食われるのが良いか、飛び下りるのが良いかと言われたら、そりゃあ飛び下りる方を選ぶさ。


だけど、民家の庭の中を通って来た俺達には、化け物の位置が分からない。


身の安全と引き換えに選んだ、先が見えない道。


行くしかないと、哲也の顔を見て頷いた時……その哲也が、ビクッと身体を震わせて後退りしたのだ。


まさか、化け物に気付かれたのか!?


と、慌てて振り返って見たけど……そこに化け物の姿はない。


化け物じゃないとしたら、哲也は何に驚いたんだ?


そう思って、その視線の先を目で追ってみると……。
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