食人姫
「!?」


思わず声を上げてしまいそうになったけど、何とか堪えて、俺も哲也と同じように後退りする。


そこには……窓の外をニヤニヤした顔で見ている爺ちゃんの姿があったのだ。


その目は、俺達を見ておらず、ジッと空を見上げていて、何かをブツブツと呟いているだけ。


「何なんだよこのジジイ!焦ったぜ……」


哲也も何とか抑えているようで、虫の鳴き声のような小さな声で怒りをぶつける。


でも……何なんだこの爺ちゃん。


昔はあんなに恐かったのに、俺達が庭にいても怒ってもいない。












「……儀式じゃぁ。巫女様……早くわしに……」











何を言っているか、詳しくは分からないけど、この爺ちゃんは明らかに儀式に賛成しているな。


「ほっとけ、去年くらいから認知症が酷くなったんだ。いつもこんな感じだぜ」


あれだけ恐かった爺ちゃんが、今は見る影もない。


それでも、今は騒がれないから助かったと言うべきか。


「じゃあ、乗り越えよう。これしか方法がないよな」


少し危険な気がするけど、それは仕方がない。


化け物に気付かれないようにと祈りながら、俺達は塀に手を掛けた。
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