食人姫
「あ……ああ……光……」
殴られ過ぎて、叫ぶ事も出来ない。
ズシャッと砂利の上に転がった光の頭部。
ビュッ、ビュッと噴き出す血が辺りに飛び散って……。
警護が刀に付いた血を払い、鞘に納めるのを見るまで、俺は目をそらす事すら出来なかった。
何が起こったのか……心が、頭が理解しようとしない。
それなのに溢れる涙。
ボロボロと目から頬を伝って落ちて止まらない。
どうして哲也も光も殺されたのに、俺だけは殺されないのか。
「おっちゃん……なんで……」
こうも簡単に人を殺せるのか。
谷の人間を守る為の儀式で、どうして多くの人が死ななきゃならないのか。
「お前は生きろ。生きて、この谷を守れ。この世は理不尽なんだよ。全てを納得して生きられるほど、甘くはねえんだよ」
その言葉を納得出来るほど、俺は大人じゃなかった。
ただ、動かなくなった光の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
気が狂いそうなほど心の中で叫んで、絶望に打ちひしがれた俺には、他に出来る事なんて何一つなかった。
こんな事になると思わなかったから、麻里絵に実香の指も渡せていない。
もう……麻里絵を助ける手段は、俺には残されていなかった。