食人姫
光の死を目の当たりにしてから、どれだけの時間が流れただろう。


俺の目からは涙が止まらず溢れ続けて、もう出ないんじゃないかと思っても、ふとした時にまた出る。


空は黒から白、青と変化して、また黒くなった。


木に縛られて、どれくらい経ったのかも分からなくなった頃、再び哲也の親父さんが俺の前に現れた。


「まだ生きてるな?そうだ、お前はこんな事くらいで死んじゃいけねえ」


俺の頭に手を伸ばし、軽くポンポンと叩いてみせる。


「おっちゃんがやったんだろ」


と、言葉に出そうとしたけど、口が小さく動くだけで、声が出ない。


ヒューヒューと、風が吹いているような音が口から聞こえるだけ。


「もうすぐだ、もうすぐ儀式が終わる。そうなったらこれから33年間は安心だ」


本殿の方に目を向けて、親父さんは小谷実香の事を思い出しているのか、寂しそうな表情を浮かべる。


33年前、親父さんは小谷実香を連れ出そうとして、俺のように捕まって殴られたのかな。


そして、見殺しにするしかなかった。


今の俺もそう。


麻里絵を助ける為に、何が出来るわけでもない。


このままでは、麻里絵が死ぬ時をただ待つだけなのだ。
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