食人姫
親父さんが社務所の中に戻り、俺は闇の中に一人放置された。


目を凝らすと、そろそろ儀式が行われるのを悟ってか、化け物達が俺の周囲に姿を見せ始める。


いよいよその時が近付いているのか。


小谷実香の指があるから、俺が食われる事はないんだけど……それにしてもこの数は何だよ。


貴族だか呪い師だか知らないけど、とんでもない怨念だな。


悪いのは山賊で、今の俺達には関係ない事だろ?


普通に生きて、普通に死んで行く事すら許されないのかよ。


と、俺の周囲に集まる化け物達を見ながら、自分の身体に流れる血に恨みを抱き始めたその時だった。














「いいえ、それは違うわ」













どこからか、囁くような声が聞こえたのは。


何だ?今の声は。


女の子の声が、どこからともなく聞こえたような。


まさか、俺の周りに集まる化け物が言っているわけじゃないだろうし。


死ぬ間際になって、いよいよ幻聴でも聞こえ始めたのかと、フフッと笑って見せた。


でも……。



















「この谷の人は、大きな間違いをしているの」

















再び声が聞こえて、ゆっくり顔を上げると……そこには、あの日見た女の子が立っていたのだ。
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