食人姫
「ほう?ガキどもが化け物に食われもせず、どうやってチョロチョロ動いておるかと思ったら……坊主、何を知っておる?」


血に塗れた顔を歪ませて、刀を抜いたまま、爺ちゃんが俺にジリジリと迫る。


その姿は……まるで化け物。


俺達を襲っている化け物とは違うが、禍々しいその姿は、化け物と呼ぶに相応しい。


爺ちゃんは……俺まで殺そうとしているのか?


この儀式の為に、一体何人の人間が死んだと思ってるんだ。


震える足に力を込めて、何とか立ち上がろうとするけど、それは叶わない。


麻里絵の死を前に、手は震えて、四つん這いになる事がやっとだった。


「どうやって化け物に食われなかったのかは知らんが、それはこの谷の儀式を脅かす力じゃ。そんな物はな、あってはならんのじゃよ!」


そして刀を振り上げて、怒りに満ちた表情を俺に向けた。











狂ってる!


少なくともこの爺ちゃんは、谷の人間の命よりも、儀式の方が大事だと思っている。


だから儀式を邪魔するやつは、孫だって容赦なく殺すし、それを何とも思っていないんだ。


爺ちゃんが俺に迫り、刀を振り下ろせば死ぬ……というところで、俺の目の前に、黒い影が立ちはだかった。
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