食人姫

「な、何で……嘘だよね?お、お兄ちゃん!」


親父さんに言われた場所、社務所の離れにある小屋。


そこに入るなり、目に飛び込んで来たのは、白いシーツを被せられた二人の遺体。


それを捲って、光の遺体を見た由奈が泣き崩れたのだ。


衣服や首の周りには血がべっとりと付着している。


刎ねられた首は、誰がやったのか縫い合わされていて、何とか生前の姿を保っていた。


「お兄ちゃん……目を開けてよ……」


由奈の啜り泣く声が小屋の中に響き渡る。


「谷の大人達に殺されたんだ。哲也も、勝浩だってきっとそうに違いない」


今考えれば、勝浩の死は化け物の仕業じゃなかった。


きっと、儀式の秘密を掴んで、親父さんにでも詰め寄ったのだろう。


そして……凄惨な死を遂げた。


哲也と光の遺体を見れば、そうである事が容易に想像出来る。


「……大輔君は、だったら大輔君はどうして生きてるの!?哲ちゃんもお兄ちゃんも殺されたのに、大輔君だけどうして殺されなかったのよ!」
















その言葉は、俺の心に深く突き刺さった。


谷の人間を恨めば良い。


俺の気持ちを理解して欲しいと思うがあまり、由奈の気持ちを全く考えていなかったと、この時初めて分かった気がした。
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